序章3

しかしこんな俺にも、くだらない飲み友達とは少し違う、大切な仲間がある。もう三十年も前の話になるが、俺は地元の三傘高校の野球部のエースだった。今でこそ人口が一万五千を割り、北海道でも下から二番目の小さな市だが、当時の三傘市は大小七つの炭鉱を抱えて人口も六万を越え、マチは活気に溢れていた。マチに活気があれば、それにつられて野球も強くなる。俺の在学当時が三傘高校野球部の全盛時代でもあった。春と秋の全道大会や夏の南北海道大会も常連で、俺が高校三年だった三十年前の夏、南北海道大会で強豪を次々に倒し、決勝では三年連続夏の甲子園を狙う名門、北洋高校を破って甲子園初出場を果たした。=一傘高校が甲子園
に出たのは後にも先にもこの一度きりだが、その時のベンチ入りメンバーの集まりである「甲子園の会」が、二年に一度、札幌で聞かれている。その「甲子園の会」の仲間で、まだ地元にいるのは、俺とショートの山崎、そしてキャッチャーを務めた一年後輩の小宮の三人で、二一人とも、高校卒業後は地元の炭鉱に就職した。俺と小宮は直轄鉱員として入社できたが、山崎は何がまずかったのか直轄の採用で落とされ、下請け会社に因された。四年前にその炭鉱が閉山したが、俺と小宮は閉山後三年を黒手帳で食いつなぎ、その後は生活保護という、落ちこぼれ組のお決まりのパターンをたどった。独身で一人暮らしを続けていた山崎は、一度は市内の土建会社に再就職したが、仕事中に起こした交通事故がもとで、そこも去年の夏にクビになったと聞いている。
金を借りるなら、山崎よりも一年後輩の小宮の方が気が楽だ。小宮も今は生保を受けており、多くは借りられないのは重々承知だ。あさって生保の金がおりるまでの「あれ」数本分のはした金を借りることができればそれでいいのだ。小宮とは、生保の受給日に市役所で顔を会わせ、近くの公園で高校野球の昔話を肴に焼酎を飲み交わし、そのまま夜遅くまで安酒屋を梯子するのがおきまりのパターンになっていた。だが、最近はかみさんがうるさいらしく、ここ二月ほどは一緒に飲んでいない。
こんな生活に陥ってからも、俺は小宮や山崎に借金を頼むことは避けてきた。それは、甲子園出場という輝かしい思い出を汚したくないという、俺のささやかなプライドだったのかも知れない。しかし、今日という今日は、もうそんなプライドにこだわってはいられない。

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