序章4

小宮の住む弥生町まで、高校の頃は自転車で十分で走りきったものだった。しかし今のこの体調では、途中にいくつもある急坂を登り切る自信がない。所持金三十三一円ではパスの初乗り代にも遠く及ばず、結局弥生町まで歩かざるをえなかった。
真夏の日差しが、アルコールが切れた俺を容赦なく攻め続ける。アスファルトからの照り返しで、めまいと吐き気がまたぶり返す。三十年前の甲子園も、ちょうどこんなひどい暑さで、思うように体が動かなかったことを思い出す。せめて帽子をかぶってくれば良かったと後悔したが、もう後の祭りである。
道半ばでバス停の待合い小屋に潜り込み、腰掛けに横になった。風通しの良い小屋の中で体を休めても、吐き気と頭痛は治まるどころかひどくなる一方だ。ふと誰かが途中で捨てた「あれ」のおこぼれがあるのでは、という思いにかられ、バス停のゴミ箱の底をのぞき込む。ひからびた西瓜の皮……「はずれ」の焼印が入ったアイスキャンディーの棒……いかさま宗教の勧誘パンフ……
子供連れの若い女が待合い小屋に入ってきて、俺はあわててバス停を後にしたo

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